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学生たちによる大般若経600巻の史料調査が完了!

2024.04.10

【社会連携】日本女子大学社会連携事業「中台延命寺所蔵史料調査および調書作成ボランティア」

日本女子大学社会連携事業「中台延命寺所蔵史料調査および調書作成ボランティア」

昨年10月に開始した本学学生たちによる板橋区中台にある延命寺(以降:中台延命寺)の「大般若経」600巻の史料調査が3月21日(木)にすべて完了しました。3月21日(木)に中台延命寺にて最後の調査を行った学生を代表して文学部史学科2年の堺マリア(さかいまりあ)さんと史学科1年の原知優(はらちひろ)さん、そして今回の社会連携事業に関わられた中台延命寺の大塚龍雅(おおつかりゅうが)ご住職、本学史学科の卒業生で板橋区教育委員会の生涯学習課文化財係に所属する神子美涼(かみこみすず)さん、本学史学科の藤井雅子(ふじいまさこ)教授にそれぞれお話を伺いました。

「寄進された人々の思いも読み取れた」(史学科2年堺さん)
「回数を重ねるごとに自分の成長を感じた」(史学科1年原さん)

(写真左から)史学科1年の原知優さんと史学科2年の堺マリアさん
(写真左から)史学科1年の原知優さんと史学科2年の堺マリアさん

——今回の史料調査ボランティアに参加したきっかけを教えてください。

堺:藤井先生の「古文書基礎演習」を履修していて、授業の中で史料の写真を色々と見せていただいたのですが、今回のボランティアでは実際の史料を見て調書の作成ができると聞いて、調査を経験すれば今後の勉強でも想像を働かせながら取り組むことができるのではと思い参加しました。

原:私も史料に触れる機会がなかったので、興味を持って参加しました。

——実際に参加してみていかがでしたか?

堺:今回の大般若経に書かれた文字は比較的読みやすかったので、読めない字はそこまでなかったのですが、とても多くの方々が大般若経を寄進されたことを知りました。地図に寄進された方のお住まいを記していくと広範囲に「中台延命寺に復興して欲しい」という思いを持った方がいらっしゃったことが分かりました。学びという点ではもちろんですが、当時(江戸時代)の人々の思いも読み取れた気がして、とても良い経験になりました。

原:初めて史料を読んだので、最初は不安も大きかったのですが、神子さんや先生方のご指導もあって回を重ねるごとに史料に書かれている内容が分かるようになり、読めなかった漢字も読め、自分の成長を感じる事ができました。

—— お二人はどのぐらい参加されたのですか?

堺:参加できる回はなるべく参加しました、全部で44時間ぐらいでしょうか。

原:私も同じで調査が実施される木曜日はほぼ毎回参加しました。

—— 多くの時間を調査に割かれたのですね。調査中に印象に残っていることはありますか?

堺:調査では大般若経一巻ごとの紙数を数えるのですが、それがすごく大変で……。「裏面で数えた方がやりやすいよ」とアドバイスをいただいて、本当に数えやすかったのが印象に残っています。

原:読めない漢字があり先生方に質問をすることも多かったのですが、たまに潰れてしまっていて先生もすぐに読めない漢字があり「こうじゃないか、ああじゃないか」と一緒に議論する時間が楽しかったです。

——600巻の調査を終えた今の心境も教えてください。

堺:少人数で取り組むとしたら途方もない巻数ですが、今回は史学科をはじめ他学科からも多くの学生が参加し、毎調査に20名ぐらい集まり、ものすごいスピードで進んでいきました。そこに私も関われたことがすごく嬉しいです。

原:調査の途中、300巻という区切りの巻を担当できたのが印象に残っています。書く作業も多くて大変ではありましたが、無事に600巻の調査が終わり達成感を味わえました。

——最後にお二人が今後史学科で学んでいきたいことについても聞かせてください。

堺:昔の人がどのような生活をしていたのかを、当時の地図などの史料から読み取るような365体育投注に興味を持っています。今回の調査で、多くの方々が関わった史料から文字列の情報だけではなくて、当時の人々の気持ちを汲んだり、思いを感じ取ったりする力が少しついたかなと思います。365体育投注や調査には、根拠のある想像力を働かせることが必要であることを学びました。

原:今回参加するまでは、今後どのような勉強をしていきたいかあまり固まっていなかったのですが、調査を通して実物の史料に触れる楽しさを感じました。これまでの勉強は知識を教わるという印象が強かったのですが、自分で史料を見て学ぶ大切さを理解できたので、自分の興味を持ったことを探求していければと思います。

最終日は経箱の採寸、調書作成を行いました
最終日は経箱の採寸、調書作成を行いました
学生たちが調査した大般若経
学生たちが調査した大般若経
学生の作成した調書
学生の作成した調書

「約40年間ストップしていた寺社の調査が動き出した」(神子さん)
「江戸時代の信仰の実態が分かる価値ある調査」(史学科藤井教授)

——改めて今回の調査のきっかけを教えてください。

神子:令和5年度に中台延命寺の仏画を区の文化財に登録することになり、たびたび調査で中台延命寺に伺っていたのですが、その中で大般若経を見た板橋区の文化財保護審議会の先生から「これも中台延命寺所蔵の仏画や寺院復興に関連する重要な史料なのではないか」とアドバイスをいただき、仏画と同時並行で大般若経の調査もさせていただくことになりました。600巻という膨大な点数だったため、一人の力ではどうしようもなく、学部から大学院まで365体育投注室でお世話になった藤井先生にご相談をしました。

藤井:私は学内の社会連携教育センターの委員をしていますが、史学科の取り組みで社会連携事業はなかなか難しいなと思っていた時だったため、自治体と連携を取りながら、学生たちの勉強の場にもなり、大変有難いお話をいただけたなと思いました。
何より、お寺さんの寺宝や史料に対する思い入れは強く、それを学生に触らせていただけるよう理解を得ることは、通常とても難しいことです。大塚住職に学生が関わる調査をお認めいただき、いろいろな条件が重なって今回実現できました。

——今回は史学科だけではなく、全学科を対象とした活動になりました。

藤井:初めての試みでしたが、大般若経を事前に見せていただき状態もとても良かったので、初めて史料を取り扱う学生でも破損の心配はないなと考えました。また、書かれている崩し字も版本のため、そこまで難しいものではなかったので、他学科の学生も問題なく取り組めるだろうと判断しました。
史学科以外の参加がどれだけあるかは未知数でしたが、想像よりも多くの他学科の学生にも協力いただけました。それぞれの学科で身につけたスキルを各作業で発揮してくれたのではないかと思います。

——学生たちの調査の様子はいかがでしたか?

神子:私が大学1年生だったらこんなに仕事ができるかな、というぐらい一生懸命取り組んでいただけました。
史料の扱いもとても丁寧でしたし、分からないことはすぐに聞いてくださり、感謝しています。

藤井:神子さんがマニュアル作成をはじめ段取りをしっかりと準備してくれたからこそ、学生たちは何の問題なく調査できたのかなと思います。
文化財を守らなければならない使命があるので、丁寧に、ときには厳しく、学生たちを指導してくださって、その姿勢が学生にも伝わったのではないでしょうか。
また、学生たちは思った以上に順応性が高くて、感心しました。読めない字があっても、次に同じようなフレーズが出てきた際に、こう書いてあるんじゃないかと応用して考え「こういう字ですか?」と案を出す姿勢が素晴らしかったです。

神子:板橋区では40年ほど板橋区内の寺社の史資料調査がストップしていました。悉皆(しっかい)調査をしたきり詳細な調査ができていなかったのですが、今回は中台延命寺さんと日本女子大学さんにご協力をいただき、ようやく詳細な調査が動き出した気がしています。

藤井:今回の大般若経は鉄眼版という版本で、それ自体はすごく珍しいものではなく全国各地に残っていますが、各巻に墨書が書かれているというのが大きな特徴でした。その墨書には地名と人名や村の名前が書いてあり、中台延命寺を中心にどれだけの範囲の人たちが信仰を寄せていたかが分かるため、江戸時代の武蔵国での宗教の実態を知るうえで重要です。
目録化すると当時の信仰の実態が一目瞭然となるので、そういった意味で大変価値のある調査だったと思います。

(写真左から)史学科藤井教授と板橋区教育委員会の神子さん
(写真左から)史学科藤井教授と板橋区教育委員会の神子さん
江戸時代後期、中台延命寺の復興のために「大般若波羅蜜多経」を奉納した人々の分布地図。ボランティア参加学生が作成しました(出典 国土地理院発行1:10000地形図『池袋』『新宿』『練馬』『中野』『石神井』『吉祥寺』(昭和31年修正測量))
江戸時代後期、中台延命寺の復興のために「大般若波羅蜜多経」を奉納した人々の分布地図。ボランティア参加学生が作成しました(出典 国土地理院発行1:10000地形図『池袋』『新宿』『練馬』『中野』『石神井』『吉祥寺』(昭和31年修正測量))

「学生たちの取り組みが
地域活性につながることを期待」(大塚住職)

大塚龍雅住職
大塚龍雅住職

今回参加していただいた学生さん一人ひとりが真剣に調査に取り組まれている姿を拝見してとても感動しています。調査期間中に本堂を見学していただく機会もあったのですが、その際も「この仏具の由来は?」など、積極的に質問をしていただき、本寺に関心を持っていただき嬉しく思いました。
地域の方々に守り続けていただいた大般若経が区の文化財になれば、地域の活性化になりますし、お檀家さんに本寺をより好きになっていただくきっかけにもなります。文化財になった際には法要(大般若転読法会)を復興することを検討しています。今回の調査に関わった皆さんのお名前を本寺の歴史に残し、法要の際に読み上げたいと思っています。

前年度に同じく区の文化財に登録された「十六善神曼荼羅」。「文化財の少ない地域なので、仏画や大般若経が文化財になるは喜ばしいことです」(大塚住職)
前年度に同じく区の文化財に登録された「十六善神曼荼羅」。「文化財の少ない地域なので、仏画や大般若経が文化財になるは喜ばしいことです」(大塚住職)

「中台延命寺所蔵史料調査および調書作成ボランティア」について

板橋区中台延命寺の大塚ご住職、板橋区教育委員会の生涯学習課文化財係の神子さん、そして本学史学科の藤井教授が連携し、本学社会連携教育センターによる社会連携事業として実施しました。
中台延命寺は、中台村の鎮守であり、人々の信仰の対象として地域を支えてきました。同寺には、江戸時代に中台村や周辺地域の人々から奉納された「大般若経」600巻が所蔵されています。この史料を通して、板橋区や周辺地域の歴史を紐解き、「大般若経」を区の文化財として保存するため、板橋区教育委員会より京都の醍醐寺など寺院調査の実績がある藤井教授に協力の依頼があり、史学科の他にも児童学科、被服学科、日本文学科、社会福祉学科、教育学科、文化学科、数物情報科学科、化学生命科学科から有志学生40名が史料調査に参加しました。